人種、ジェンダー、階級、セクシュアリティ、障害など、複数の社会的カテゴリーが交差(intersect)する地点に、固有の差別が生じるという分析枠組み。1989年、法学者キンバリー・クレンショーが論文のなかで用いた。出発点は雇用差別をめぐる訴訟である。黒人女性が差別を訴えても、会社が黒人男性を雇い、白人女性も雇っていれば、人種差別としても性差別としても認められない。差別は足し算ではなく、交差点にしか現れない質を持つ——この洞察が概念の核にある。

語そのものは1989年のものだが、発想はより古い。1977年のコンバヒーリバー・コレクティヴ宣言は、すでに「連動する抑圧」として同じ構造を言葉にしていた。

この概念は、フェミニズムの内側にある不均衡——白人中産階級の女性の経験が「女性の経験」として一般化されてきた歴史——を問い直す契機ともなった。現在では学術を超えて運動や政策の言語となっているが、一方で、属性のリストを並べるだけの言葉として消費され、権力構造の分析という核が抜け落ちる使われ方への批判もある。

ケアの文脈では、誰がケアを担わされ、誰のケアが見えにくくなっているのかを考えるときに、欠かせない視座を与える。

→ブラック・フェミニズム →トランスフェミニズム

参考文献

  • パトリシア・ヒル・コリンズ、スルマ・ビルゲ『インターセクショナリティ』小原理乃訳、下地ローレンス吉孝監訳、人文書院、2021年
  • Kimberlé Crenshaw, “Demarginalizing the Intersection of Race and Sex: A Black Feminist Critique of Antidiscrimination Doctrine, Feminist Theory and Antiracist Politics,” University of Chicago Legal Forum, 1989
  • キアンガ=ヤマッタ・テイラー編『コンバヒーリバー・コレクティヴ宣言——ブラックフェミニズムをつくってきた黒人女性たちは語る』Political Feelings Collective訳、花伝社、2026年

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