出生時に割り当てられた性別と性自認が一致している人を指す語。トランスジェンダーと対になる。ラテン語の接頭辞 cis-(こちら側の)に由来し、trans-(越えて)と対をなす化学の用語法から取られた。1990年代前半に学術とインターネット上の議論の双方で使われはじめ、2000年代以降に定着した。
なぜこの語が必要なのか。トランスジェンダーにだけ名前があり、そうでない人が「普通の人」「ただの女性」「ただの男性」と呼ばれる状態では、片方だけが説明を要する特殊な存在になってしまう。シスジェンダーという語は、多数派の側にも名前を与えることで、その位置を「基準」から「ひとつの位置」へと戻す働きを持つ。名前のないものは、問われることもない。
この語は「特権のレッテルだ」として反発を受けることがある。だが、シスジェンダーであるかどうかは、その人の生きづらさの多寡を測る指標ではない。性別の割り当てと自認の関係を記述しているだけであり、シスジェンダーであっても、性別規範に苦しめられることは当然にある。記述と評価を混同しないことが、この語を使ううえでの要点になる。
→トランスジェンダー →性自認 →トランスフェミニズム
参考文献
- 周司あきら・高井ゆと里『トランスジェンダー入門』集英社新書、2023年
- ジュリア・セラーノ『ウィッピング・ガール——トランスの女性はなぜ叩かれるのか』矢部文訳、サウザンブックス社、2023年