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レズビアン連続体とは
「レズビアン連続体」(lesbian continuum)は、アメリカのフェミニスト批評家であるエイドリアン・リッチ(Adrienne Rich)が1980年に発表したエッセイ「異性愛は強制か?」(Compulsory Heterosexuality and Lesbian Existence)の中で提唱した概念です。この概念は、リッチが異性愛を社会的に強制された規範と批判し、女性同士のつながりや関係性を再評価する中で示されました。
概念の概要
レズビアン連続体は、女性同士のつながりを広い視点から捉えたものです。「レズビアン」という言葉を、単に性的指向に限定されたものではなく、女性同士の感情的、知的、社会的、政治的な関係性全体を含む広範なスペクトルとして捉えます。
主なポイント
- 広がりとしてのレズビアン連続体
- この連続体には、伝統的に「レズビアン」として認識される性的関係だけでなく、女性同士の深い友情、育児や共同体を通じた支え合い、さらには政治的な連帯や協働が含まれます。
2. 異性愛規範への挑戦
- リッチは、異性愛が単に自然な性的指向ではなく、歴史的・社会的に強制されてきた制度であると指摘します。
- レズビアン連続体という視点は、この異性愛規範に対抗し、女性同士のつながりを抑圧から解放する可能性を示唆しています。
3. 女性の歴史の再評価
- リッチは、女性の歴史が異性愛を前提に記述されてきたことを批判し、女性間の関係性を歴史的に重要なものとして再評価します。
- この視点は、フェミニズムやクィア理論に大きな影響を与えました。
批判と議論
批判
- 性的指向の過剰な一般化
- レズビアン連続体の概念は、性的指向を超えて女性同士のつながりを捉えるという意義がある一方で、「レズビアン」という言葉が持つ性的な意味合いを希薄にしているとの批判もあります。
- 普遍化のリスク
- 女性間のあらゆる関係を「レズビアン連続体」として語ることで、性的指向に基づくレズビアンのアイデンティティが不明確になる可能性も指摘されています。
意義
レズビアン連続体の概念は、女性同士の多様なつながりを理論化し、異性愛規範を問い直すうえで重要な視座を提供しました。この概念はフェミニズム研究やクィア理論における重要な基盤となり、ジェンダーやセクシュアリティの固定的な枠組みを再考する契機となりました。
リッチの提唱するこの概念は、性別間の力関係や社会的な制度としての異性愛の構造に対する批判としても読むことができます。
トランス女性も含まれるか?
トランス女性を含むかどうか
以下の観点から検討できます:
- 概念の広がり
- リッチの「レズビアン連続体」は、狭義の性的指向に限らず、女性同士の多様な関係性を含むため、トランス女性が女性として他の女性と築くつながりが、この連続体に含まれる余地があります。
- 特に、トランス女性とシス女性(出生時の性別が女性である人)が共に異性愛規範やジェンダー抑圧に抗う連帯を築く場合、この連続体に当てはめることができるでしょう。
2. 批判的な視点
- 一部のフェミニストの間では、リッチの理論を「生物学的女性」に限定して解釈することもありますが、これはリッチの意図する広がりに反する可能性があります。
- 彼女の理論の核心は、社会的抑圧と異性愛規範の克服にあり、生物学的な性別に縛られるべきではないと考えることができます。
3. 現代のフェミニズムとインターセクショナリティ
- 現代のフェミニズムは、インターセクショナリティや多様性を重視し、トランス女性を女性の一員として認め、女性間の連帯に含めるべきだとする視点が一般的です。
- この文脈では、「レズビアン連続体」も広く解釈され、トランス女性を排除しない方向で再解釈される可能性が高いです。
結論
理論上、トランス女性も「レズビアン連続体」に含まれるべきです。ただし、これはリッチの原理論の明言というよりも、現代のフェミニズム的価値観に基づいた解釈の結果です。
レズビアン連続体とシスターフッドの違い
共通点と相違点
特徴 | レズビアン連続体 | シスターフッド |
範囲 | 女性同士の多様な関係性を含む | 女性全体の連帯に焦点 |
強調点 | 異性愛規範への挑戦と女性間の親密性 | 抑圧体験の共有による政治的連帯 |
性的要素 | 含まれる場合もあるが必須ではない | 性的要素は含まない |
批判への対応 | 性的指向やトランス女性をどこまで含むか議論の余地 | 差異の軽視が批判され、再構築が求められる |
「レズビアン連続体」は、女性同士のつながりを広範囲に捉え、異性愛規範への批判を中心とした理論です。一方、「シスターフッド」は女性全体の共通性を強調し、抑圧への政治的な対抗手段として提唱されました。
両者には重なる部分もありますが、焦点や目的、扱う範囲に違いがあります。
レズビアン連続体と4Bとの関係
「レズビアン連続体」と「4B」は、どちらもフェミニズムの文脈で議論される概念ですが、それぞれの背景や目的には大きな違いがあります。ただし、女性間の連帯や異性愛規範への批判という共通点を持つため、部分的に関連があると考えられます。
1. レズビアン連続体の概要
- 提唱者: エイドリアン・リッチ(Adrienne Rich)
- 概念の核心:
女性同士のつながりを広く捉え、性的指向だけでなく、友情、ケア、連帯などのあらゆる女性間の関係を含む。異性愛規範を批判し、女性同士の連帯を社会的に再評価する視点を提供する。 - 目的: 異性愛を社会的に強制された規範として批判し、女性同士の多様なつながりを解放する。
2. 4Bの概要
- 提唱背景: 韓国のラディカルフェミニズム運動から派生したライフスタイル指針。
- 4つのBの内容:
- 結婚しない(No Marriage, 비혼)
- 恋愛しない(No Dating, 비연애)
- 性行為しない(No Sex, 비성관계)
- 出産しない(No Childbirth, 비출산)
- 目的: パトリアルキー(父権制)と資本主義の構造が女性に課す役割を拒否し、自立した生き方を追求する。
3. 共通点と関連性
共通点
- 異性愛規範への批判
- レズビアン連続体は、異性愛が制度として女性を抑圧していると批判し、女性同士のつながりを重要視します。
- 4Bも、異性愛を前提とした結婚や恋愛の構造そのものを拒否し、女性が自立することを目指します。
- 女性間の連帯の重視
- レズビアン連続体では、友情やケアを含む女性同士の関係性が、異性愛規範への対抗手段として提案されています。
- 4Bでも、男性中心の社会構造に抗うために、女性同士の共感や連帯を強調しています。
- パトリアルキーの批判
- 両者とも、男性支配(パトリアルキー)の構造が女性を抑圧する点を批判の対象としています。
関連性
- 4Bとレズビアン連続体の接点
4Bは異性愛的な恋愛や結婚を拒否する選択肢を示す中で、女性同士の友情や支援関係が代替として重要な役割を果たします。この点で、レズビアン連続体の「女性同士のつながり」の視点が重なる部分があります。 - 性的指向の問題
4Bは必ずしも性的指向を問わないライフスタイルの指針ですが、異性愛を拒否する選択の一部がレズビアンとして生きることと一致する可能性があります。そのため、一部の4B支持者の中には、レズビアン連続体の概念に共感する人もいるでしょう。
4. 相違点
項目 | レズビアン連続体 | 4B |
提唱者 | エイドリアン・リッチ | 韓国のラディカルフェミニズム運動 |
主な焦点 | 女性同士のつながりと異性愛規範の批判 | 異性愛、結婚、恋愛、性行為、出産の拒否 |
性的指向の扱い | 性的指向だけでなく、友情や連帯を含む広い範囲を対象 | 性的指向に限定せず、ライフスタイルの選択肢 |
結婚や出産の拒否 | 直接的には触れていない | 明確に結婚や出産を拒否する |
女性間のつながり | 女性間のすべての関係性を肯定 | 連帯を重視するが、生活の自立が中心 |
5. 結論
「レズビアン連続体」と「4B」は、異性愛規範への批判や女性同士の連帯という点で共通していますが、目的と範囲には違いがあります。
- レズビアン連続体は、女性同士のあらゆる関係性をポジティブに再評価し、異性愛規範を相対化する理論的な枠組みです。
- 一方で、4Bは男性中心の社会構造そのものに抗議し、結婚や恋愛などの制度的な束縛を拒否する具体的なライフスタイル運動です。
両者は補完的な関係にあり、異性愛規範を超えた女性の生き方を模索する点で共通する側面を持っています。
ZINE
レズビアン連続体、シスターフッド、4Bとどれも女性との連帯だけど、かなりその概念が違うのが分かります。トランス女性に対するスタンス(インターセクショナリティ)も、その時代背景とともに変わってる感じがします。
それぞれの連帯、トランス女性トのスタンス、どれをとってもその背景に、「女性とはなにか」という「問い」があるように思います。それは「男性ではない」なにかを模索しているような気がするのです。
言葉としては、シスターフッドが使いやすく、レズビアン連続体や4Bは過激な思想に思えますよね。印象だけのはなしですけど。
いまは韓国フェミニズムの影響があって、4Bが注目されてるようですが、一方、SISTERS IS NOT CIS-TERSというシスターフッドの標語があるように、シスターフッドへのトランス女性の受け入れも一部ですすんでいるようですね。