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ギグワークとは
ギグワークとは、フリーランスや短期契約を基盤とする働き方の一形態で、主にオンラインプラットフォームを介して個人が仕事を受注し、単発または短期間での業務を行うことを指します。この形式は以下のような分野で広がっています:
- 配車サービス(Uber、Lyft)
- フードデリバリー(DoorDash、Uber Eats)
- タスク実行(TaskRabbit、Lancers)
- クリエイティブ業務(デザイン、ライティング、プログラミングなど)
ギグワークは柔軟な働き方を可能にする一方で、多くの問題を抱えています。
ギグワークが抱える主な問題
1. 労働者の権利の欠如
• ギグワーカーは多くの場合、法律上の「労働者(employee)」ではなく「個人事業主(independent contractor)」として扱われます。このため、以下のような労働者保護が適用されません:
- 最低賃金
- 労働時間の規制
- 健康保険や有給休暇
- 失業手当や労災補償
2. 収入の不安定さ
- ギグワーカーの収入は仕事の受注量やプラットフォームのアルゴリズムに依存しているため、収入が非常に不安定です。
3. プラットフォームの一方的な支配
- プラットフォームが料金設定や仕事の評価システムを一方的に決定するケースが多く、ギグワーカーは立場が弱くなることがあります。
- アカウント停止などの制裁をプラットフォーム側が自由に行える点も問題視されています。
4. 社会保障の欠如
- 多くの国でギグワーカーは社会保険や年金の加入が難しく、将来の生活保障が不十分です。
5. 労働条件の不透明性
- 労働条件や報酬体系が曖昧で、ギグワーカーが搾取される可能性があります。
ギグワークに関する訴訟や法的議論
ギグワークに関する訴訟は世界中で起きています。以下に代表的な事例を挙げます。
1. カリフォルニア州のAB5法案
- 概要: 2019年にカリフォルニア州で成立したAB5法案は、ギグワーカーを「従業員」として認定する条件を厳しくしました。
影響
- UberやLyftなどのプラットフォーム企業がこの法律に反発し、法改正を求める住民投票(プロポジション22)を実施。
- プロポジション22は2020年に成立し、ギグワーカーを個人事業主として扱い続ける特例が認められましたが、この動きも再び法廷闘争に。
2. イギリス最高裁判所判決(Uber案件)
- 概要: 2021年、イギリス最高裁はUberの運転手を「従業員」ではないが「労働者(worker)」と認定しました。
影響:
- Uberは最低賃金や有給休暇を提供する義務を負うことになり、他のヨーロッパ諸国にも影響を与えました。
3. 日本における動き
- 日本では、ギグワーカーを含むフリーランスの権利を保護するため、厚生労働省がガイドラインを発表していま
- 2021年に「フリーランスガイドライン」が制定され、報酬の不払い禁止や適切な契約締結が義務付けられました。
- しかし、法律による強制力は弱く、根本的な保護には至っていません。
4. EUでの議論
- 欧州連合(EU)はギグワーカーを労働者として認定する法改正を検討しており、プラットフォーム側に透明性と労働者保護を求めています。
今後の展望
- ギグワークの拡大に伴い、各国で法整備や訴訟が増加しています。
- プラットフォーム経済が労働市場に与える影響をどうコントロールするかが、各国の課題です。
- 技術革新によるギグワークの効率化と、労働者の権利保護をいかに両立させるかが、今後の焦点となります。
ギグワークの言葉の由来
「ギグワーク (Gig Work)」の「ギグ (Gig)」は、もともと音楽業界で使われていたスラングで、「一回限りの演奏依頼」や「ライブの仕事」を意味します。19世紀後半の英語圏で、ジャズミュージシャンやバンドがその日の演奏を指して「ギグ」と呼ぶようになったのが始まりです。
• 語源:
- 「ギグ」という言葉は、中世英語の「gigge」から派生した可能性があり、これは「短時間で何かをする」や「遊び」のニュアンスを持っています。
- ミュージシャンの世界では、短期間の仕事や一時的な雇用形態を示す言葉として定着しました。
この「ギグ」が、21世紀に入って短期的・単発的な労働形態全般を指す用語として転用され、現在の「ギグワーク」という言葉が生まれました。
ギグワークと音楽業界の共通点
音楽業界での「ギグ」と現代の「ギグワーク」にはいくつかの共通点があります:
1. 短期性: 単発または短期間で完結する仕事。
2. 柔軟性: 自分のスケジュールに合わせて働ける。
3. 独立性: 雇用主に縛られず、個人で仕事を引き受ける。
これらの特徴が、現代のフリーランスやプラットフォームベースの仕事に合致していたため、ギグという言葉が労働市場の新しい形態を表すキーワードとして広まったのです。
言葉の普及
2000年代以降、UberやLyftなどのプラットフォームが登場し、これらの働き方が急速に普及したことから「ギグエコノミー (Gig Economy)」という表現も一般化しました。この経済モデルは、一時的な契約やフリーランスの仕事を主軸としており、伝統的な雇用形態とは異なるものです。
ギグワークと女性
ギグワークと女性、そしてフェミニズムとの関係は複雑で、多面的な側面があります。一方では、ギグワークが女性に新しい働き方の選択肢を提供し、柔軟性をもたらすというポジティブな側面がありますが、他方では、性別による不平等や労働の搾取を助長するリスクもあります。
ポジティブな側面
1. 柔軟性の提供
- ギグワークは、仕事の時間や場所を選びやすいという特徴があり、家庭や育児、介護などの責任を担うことが多い女性にとって、従来のフルタイム労働よりも魅力的です。
- 特に、育児中の女性や介護を担う女性が、フルタイムの労働市場に戻る前のステップとしてギグワークを利用するケースが多いです。
2. 起業・自己実現の機会
- ギグワークはスキルを活かして個人事業主として活動する機会を提供します。たとえば、ライティング、デザイン、教育といったスキルを持つ女性が、企業の構造に縛られずに働ける場を得られます。
3. 経済的自立のサポート
- 家庭外で働くことが難しい環境にいる女性でも、インターネットを通じて仕事を受けられるギグワークは経済的な自立の手段となります。
ネガティブな側面
1. 性別賃金格差
- 多くのギグワークプラットフォームで、女性が男性に比べて低い報酬を受け取るケースが報告されています。たとえば、配車サービスのUberでは、男性ドライバーの方が高い収入を得る傾向があることが研究で明らかになっています(主に走行距離や労働時間の違いから)。
2. 性差別やハラスメントのリスク
- 女性ギグワーカーは、顧客や雇用主、またはプラットフォーム内での性差別やハラスメントにさらされるリスクがあります。
- 特にデリバリーや配車サービスなど、顧客と直接対面する仕事では、物理的な危険も存在します。
3. 無償労働の増加
- ギグワークの柔軟性が女性の「育児や介護との両立」を可能にしている一方で、無償の家事労働を担い続けるという構造を温存する可能性があります。
4. 社会保障の欠如
- ギグワークは社会保障や育児休暇といった伝統的な労働者保護がないため、女性がギグワークに依存すると、経済的に脆弱な立場に追いやられる可能性があります。
フェミニズムの視点からの考察
1. 労働のジェンダー化
- ギグワークにおける女性の労働は、伝統的な性別役割を反映することが多いです。たとえば、女性はタスク型の仕事(家事代行、育児サポート、デザイン業務)を選びがちですが、これらは男性中心の労働(配車サービス、IT関連業務)に比べて低賃金であることが多いです。
2. エンパワーメント vs 搾取
- フェミニズムの中でも意見が分かれる点として、ギグワークは女性をエンパワーする手段となり得る一方で、プラットフォーム企業が低賃金や社会保障の欠如を通じて労働を搾取する温床にもなり得ると指摘されています。
3. 構造的な問題の解決
- ギグワークの柔軟性は、短期的には女性の働き方の選択肢を広げるかもしれませんが、長期的には、家庭内の性別役割分業や女性の経済的脆弱性といった構造的な問題を温存するリスクがあります。
- フェミニストの間では、家事や育児の負担を平等に分担する社会変革の必要性が議論されています。
ギグワークと女性に関する事例や訴訟
1. 性差別の訴訟
- 一部のギグワーカーがプラットフォーム企業に対して「性別による差別的な賃金や待遇」を訴えたケースがあります。
2. 育児支援とギグワーク
- アメリカでは、母親支援プラットフォームがギグワークを活用して育児支援サービスを提供するケースも増えており、これが新たなフェミニスト的経済モデルとして注目されています。
3. 政策提言
- 一部のフェミニスト団体は、女性ギグワーカーの労働権を守るため、最低賃金保障やハラスメント防止策を提言しています。
ギグワークは女性に柔軟な働き方を提供する可能性を持ちながらも、性別不平等や労働搾取の課題を内包しています。フェミニズムの視点からは、ギグワークが女性の自立を支援しつつ、構造的な問題に対処するための政策や社会的な変革が求められています。
ZINE
わたしデザイナーだからギグワーカーなのね。ショック。タスク型の反対語はジョブ型じゃなくって、プロセス型だって。だったらプロセスを大切にしたデザインをやって、短期間でロゴをつくるなんてタスク型の仕事をしちゃだめね。