江南駅事件

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韓国・江南駅事件についての解説

江南駅事件は、2016年5月17日未明、韓国ソウルの江南駅近くのビルのトイレで発生した女性殺害事件です。事件は、無差別殺人として報じられましたが、犯人の動機が「女性を狙った」という供述であったため、性差別やジェンダー問題への関心を呼び起こしました。

以下に、この事件を「ミソジニー(女性嫌悪)」と「ミサンドリー(男性嫌悪)」の両側面から解説します。

ミソジニー(女性嫌悪)の観点から

1. 事件の背景:

• 犯人の男性は、事件の供述で「女性が自分を無視し、自分の人生を台無しにした」という理由で女性を殺害したと語っています。この動機は、女性全体を敵視し、個人的な不満を女性に投影するミソジニスティックな考え方の表れといえます。

2. 社会的影響:

• 事件後、多くの女性が「女性であること自体が狙われる理由になる」という恐怖を共有しました。これは韓国社会における女性嫌悪的な文化や構造的な問題を浮き彫りにしました。

• 女性たちは「私たちを追悼する」キャンペーンを展開し、江南駅近くには献花台が設置され、抗議のメッセージが次々と寄せられました。

3. 構造的な問題の議論:

• 事件を契機に、韓国社会におけるジェンダー不平等、性的暴力、日常的なミソジニー(例えば職場や家庭での女性差別)が議論されるようになりました。

• 一部の男性たちは「フェミニズムが行き過ぎている」として反発し、ジェンダー論争が激化しました。

ミサンドリー(男性嫌悪)の観点から

1. フェミニズム批判の拡大:

• 事件後、フェミニズム運動が盛り上がる中、一部の男性は「事件を利用して男性全体を悪者にしている」と反発しました。この反応から、韓国におけるミサンドリー(男性嫌悪)という逆の偏見が議論されるようになりました。

2. 反男性的言説の出現:

• 事件を契機に、一部の過激なフェミニストが「男性は潜在的な加害者」と主張し、男性全体を一括りにする言説が拡散されました。

• 特に、韓国のオンラインコミュニティでは、男性への攻撃的な発言や行動が目立ち始め、対立を深める結果となりました。

3. 男性の被害者意識:

• 男性の一部は、「江南駅事件以降、男性全体が加害者扱いされている」と感じ、不満を募らせました。これにより、ミサンドリーを批判する動きも広がりました。

両者の視点を統合した分析

1. 対立構造の悪循環:

• 江南駅事件は、元々ミソジニーに根差した犯罪でしたが、その後の議論の中でミサンドリー的な言説も拡大し、韓国社会におけるジェンダー間の対立が悪化しました。

• どちらか一方の立場だけを強調する議論は、問題解決ではなく対立の深化につながることが指摘されています。

2. ジェンダー問題の根本:

• この事件は、ミソジニーだけでなく、ジェンダー間の信頼欠如や構造的な不平等の象徴的な事例として語られます。

• 解決には、性別を問わず、お互いの痛みを理解し、構造的な問題に取り組むことが重要です。

結論

江南駅事件は、ミソジニーによる犯罪として発生しましたが、その後の社会的反応により、ミサンドリー的な議論も生じました。事件の教訓は、ジェンダー対立を煽るのではなく、平等な社会を目指す議論を深める必要性を強調していると言えるでしょう。

江南駅事件に関連する「トランスヘイト(トランスジェンダーへの憎悪や差別)」については、直接的な因果関係がないものの、ジェンダー問題が社会的に浮き彫りになった背景において、トランスジェンダーの人々への差別や偏見が議論の一部として表面化したと考えられます。

江南駅事件とトランスヘイトの関連性

1. 事件後のジェンダー論争の拡大:

• 江南駅事件は、女性嫌悪が焦点となった事件ですが、その議論の中でジェンダー全体の問題が議論されるようになりました。

• 韓国では、LGBTQ+の権利やトランスジェンダーの問題がまだ十分に理解されていない部分があり、フェミニズムやジェンダー論争の文脈でトランスジェンダーの権利が矮小化されることがありました。

2. フェミニズムとトランスインクルーシビティの摩擦:

• 一部のフェミニズム運動がトランス女性を女性と認めない「排他的フェミニズム」(TERF)的な主張をするケースもあり、ジェンダー論争の中でトランスヘイトが可視化されることがありました。

• 江南駅事件後の議論の中で、「生物学的女性」を強調する一部の主張が、トランスジェンダーの人々を排除する言説に発展する場面も見られました。

3. オンライン空間でのトランスヘイトの増幅:

• 韓国のオンラインコミュニティでは、フェミニズムやジェンダー平等を批判する一部の男性中心のグループがトランスジェンダーの人々を攻撃対象にする場面もありました。

• 一方で、フェミニズム運動の一部もトランスジェンダーを排除するような言説を広めることがあり、トランスジェンダーの人々が双方から攻撃を受ける状況が生まれました。

江南駅事件を通じてトランスヘイトを考える意義

1. 包括的ジェンダー平等の必要性:

• 江南駅事件は、女性嫌悪が直接の動機でしたが、このような暴力の背景には、社会全体でのジェンダー不平等と差別が根付いています。

• 女性、トランスジェンダー、ノンバイナリーの人々を含む、すべてのジェンダーに対する包括的な平等が必要です。

2. 「他者化」の克服:

• トランスヘイトもミソジニーも、「他者」を恐れたり排除したりする態度から生まれるという共通点があります。

• 江南駅事件のような悲劇を繰り返さないためには、ジェンダーに関する包括的な教育と共感の醸成が重要です。

3. 連帯の可能性:

• ジェンダー暴力や差別は、性別を問わずすべての人にとっての課題です。トランスジェンダーの人々を含む多様なジェンダー間での連帯を築くことが、ヘイトや差別を克服する鍵になります。

結論

江南駅事件をきっかけに浮き彫りになったジェンダー問題は、ミソジニーやミサンドリーだけでなく、トランスヘイトという別の側面も含んでいます。ジェンダーに関するすべての差別を根本からなくすためには、フェミニズム運動や社会全体が、すべての人々を包摂する方向に進む必要があります。

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