心理的な困難を、個人の内面だけの問題として扱わず、その人が置かれた社会的な状況との関係で捉えるカウンセリングの実践。アメリカで生まれたフェミニスト・セラピィを源流とする。
出発点にあるのは、女性解放運動のなかで行われた意識覚醒(コンシャスネス・レイジング)のグループである。女性たちが集まって自分の経験を語り合ううちに、個々の悩みだと思っていたことが、多くの人に共通する構造の産物だと見えてくる。「個人的なことは政治的なこと」というスローガンは、この気づきから出ている。
実践としての特徴は二つある。ひとつは、症状や不適応を「治す」対象としてではなく、状況への反応として理解すること。もうひとつは、カウンセラーとクライエントのあいだの上下関係をできるだけ小さくすることである。専門家が解釈を与えるのではなく、本人が自分の経験を言葉にしていく過程を支える。
日本では、1980年に東京で開設された個人開業のカウンセリングルームが始まりとされる。「セラピィ」という語が医療的に響くことを避けて、「カウンセリング」の語が選ばれた。その後、各地にルームが開かれ、学会と資格認定の制度も整えられている。
苦しいのはあなたが悪いからではない、という前提に立つこと。それが治療技法である以前に、ひとつの立場表明であることは、いまも変わらない。
→アサーティブネス →エンパワーメント →ケアの倫理
参考文献
- 河野貴代美『1980年、女たちは「自分」を語りはじめた——フェミニストカウンセリングが拓いた道』幻冬舎、2023年
- 河野貴代美『フェミニストカウンセリングⅠ・Ⅱ』新水社、1991年/2004年
- ジェンダー事典編集委員会編『ジェンダー事典』丸善出版、2024年