Glossary
エコフェミニズム:社会運動としての意義と日本における論争
1. エコフェミニズムの起源と基本理念
エコフェミニズムという言葉は、1974年にフランスの作家でフェミニストであるフランソワーズ・ドボンヌが著書『フェミニズムか、死か(Le Féminisme ou la mort)』で初めて提唱しました。
彼女は、地球環境の破壊と女性への抑圧がいずれも西洋的な家父長制社会の価値観に根ざしていると指摘しました。そして、これらの問題を解決するためには、抑圧的な男性優位の権力構造を変革しなければならないと主張しました。ドボンヌのこの提唱は、環境問題とジェンダー平等を結びつけた革新的な視点として注目されました。
2. エコフェミニズムの社会運動としての実践
エコフェミニズムは理論に留まらず、具体的な社会運動として発展しました。特に、以下の活動はエコフェミニズムの実践例として有名です:
• チプコ運動(インド):女性たちが森林伐採に抗議し、木に抱きつく非暴力的な行動で環境保全を訴えました。
• グリーンベルト運動(ケニア):ワンガリ・マータイが中心となり、植林活動を通じて砂漠化防止、女性の地位向上、貧困削減を目指しました。
• ウィメンズ・ペンタゴン・アクション(アメリカ):エコフェミニストたちが平和的抗議活動を行い、環境と女性の権利を結びつけるメッセージを発信しました。
これらの活動は、「自然と女性の解放は切り離せない」というエコフェミニズムの理念を象徴しています。
3. 日本における「エコフェミ論争」
1980年代半ば、日本では「エコフェミ論争」と呼ばれる激しい議論が展開されました。この論争は、青木やよひがカルチュラル・エコフェミニズムを紹介したことをきっかけに始まりました。
• 青木やよひの主張
青木やよひは、女性が自然と特別なつながりを持つというカルチュラル・エコフェミニズムの視点を重視しました。特に、家父長制以前の社会で女性が「生命を育む存在」として尊重されていたという考えを広めようとしました。
• 上野千鶴子の批判
上野千鶴子は、女性を「自然に近い存在」として位置づけることが、家父長制的な価値観を再強化し、新たな抑圧を生む可能性があると批判しました。また、母性や自然との結びつきを強調することが女性の役割を固定化し、解放から遠ざけると指摘しました。
この論争の結果、日本では上野の批判的視点が支持され、エコフェミニズムの発展は停滞しました。しかし、この論争はエコフェミニズムが文化的背景に応じて多様に解釈されることを示し、思想としての可能性を残しました。
4. 現代の再評価:社会運動への応用
近年、エコフェミニズムは新たな文脈で再評価されています。クィア・エコフェミニズムやインターセクショナリティの視点を取り入れ、より包括的な運動へと進化しています。
• クィア・エコフェミニズム:自然・女性・クィアといった抑圧されてきた存在を結びつけ、同時解放を目指す新しいアプローチ。
• 社会運動への応用:エコフェミニズムの視点は、環境運動、ジェンダー平等、人種問題など多様な社会課題を統合的に捉える枠組みとして機能します。
5. エコフェミニズムの未来
エコフェミニズムは、気候変動やジェンダー問題だけでなく、人種や階級の交差点に立つ課題にも対応できるフレームワークとして注目されています。その思想は、持続可能で平等な社会を目指す多様な社会運動の土台となり得るでしょう。
ZINE
カルチュラル・エコフェミニズムのような、女性を生物学的に、自然や母性と結びつけることは、もしかしたらクィアな女性を否定してしまうことにもなりなねないので注意が必要なんだけど、資本主義的な消費社会が女性をもっとも傷つけているという観点から、マルクス主義的フェミニズムとの関連はあるので、上野千鶴子がエコフェミニズム全体を否定してるわけじゃないじゃないかと思った。
今日的には、地球温暖化と女性問題のような、グレタ・トゥーンベリさんがやってるような社会アクションをフェミニズムの観点から考えることも大切なんだろうね。結局、戦争も環境問題も最初に被害を被るのは女性と子どもだから