性のあり方を、正常と異常に分ける枠組みそのものを問う学問領域。1990年前後に、主に英語圏で成立した。

「クィア」はもともと「奇妙な」を意味し、同性愛者への蔑称として使われてきた語である。それを当事者が引き受け、名乗り返した。侮辱の言葉を投げ返す——この身ぶり自体が、この領域の姿勢をよく表している。背景には、エイズ危機のなかで生まれた直接行動の運動があった。

学問としての出発点には、1990年に相次いで刊行されたイヴ・コソフスキー・セジウィックとジュディス・バトラーの著作がある。セジウィックは、同性愛/異性愛という二分法そのものが近代の産物であり、社会全体の認識を形づくってきたと論じた。バトラーは、ジェンダーが繰り返しの行為によって成り立つものだと示した。共通するのは、少数者を説明の対象とするのではなく、多数派を含む枠組み全体を分析にかけるという転換である。

一方、この領域は自らへの批判も抱えてきた。アカデミアに定着するにつれ運動との距離が開いたこと、白人・欧米中心の視点が前提になってきたこと、そして「クィア」という名乗りが誰にとっても使いやすいわけではないこと。問いを立て続ける学問が、自分自身にも問いを向けている状態にある。

→ヘテロノーマティヴィティ →インターセクショナリティ →ジェンダー研究

参考文献

  • 菊地夏野・堀江有里・飯野由里子編『クィア・スタディーズをひらく』全3巻、晃洋書房、2019-2022年
  • イヴ・コソフスキー・セジウィック『クローゼットの認識論——セクシュアリティの20世紀』外岡尚美訳、青土社、新装版2018年
  • ジュディス・バトラー『ジェンダー・トラブル——フェミニズムとアイデンティティの攪乱』竹村和子訳、青土社、新装版2018年

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