20世紀初頭のイギリスで、女性参政権を求めて戦闘的な手法をとった運動家たち。とくに1903年にエメリン・パンクハーストが設立した女性社会政治同盟(WSPU)の一派を指す。
もともとは『デイリー・メール』紙が運動を揶揄するために作った語だった。参政権論者を意味する suffragist に、小さく取るに足らないものを示す接尾辞をつけた造語である。運動家たちはこれを逆手に取り、自称として引き受けた。穏健な請願を重ねる suffragist(NUWSS、ミリセント・フォーセットら)と自らを区別する呼び名にもなっている。
掲げた標語は「言葉ではなく行動を」。集会やデモにとどまらず、窓ガラスを割り、郵便ポストに放火し、逮捕されれば獄中でハンガーストライキを行った。当局は強制摂食で応じ、1913年には衰弱した者をいったん釈放して回復後に再収監する法律——通称「猫とねずみ法」——を制定している。同年、エミリー・デイヴィソンがダービーの競馬場で国王の馬の前に飛び出し、命を落とした。
1918年、30歳以上で一定の資産要件を満たす女性に選挙権が認められ、男女が同じ条件で投票できるようになるのは1928年である。
同時に、運動が帝国の枠内にあったことも見落とせない。インド出身のソフィア・ダリープ・シングのような参加者がいた一方で、運動の語りは長く白人中産階級のものとして残った。第一次大戦が始まるとパンクハーストらは戦争協力に転じてもいる。
2015年の映画『未来を花束にして』は、指導者ではなく洗濯工場で働く女性を主人公に据えた点で貴重な作品である。公開時には、出演者が身につけた宣伝用の標語が奴隷制の語彙を安易に借りていると批判され、キャストの白人性も議論になった。運動を描くこと自体が、誰を中心に置くかという選択であることを示した一件でもある。
→第一波フェミニズム(first-wave feminism) →市川房枝 →平塚らいてう →インターセクショナリティ(intersectionality) →パリテ
参考文献
映画『未来を花束にして』(原題 Suffragette、サラ・ガヴロン監督、2015年)
河村貞枝『イギリス近代フェミニズム運動の歴史像』(明石書店、2001年)
佐藤繭香『イギリス女性参政権運動とプロパガンダ——エドワード朝の視覚的表象と女性像』(彩流社、2013年)