夫が働き妻が家庭を守り、親子が同居して家を継いでいく——そうした家族の形を「日本古来のもの」として語る言い方。政治的な主張の場面で持ち出されることが多い。
ここで確認しておきたいのは、この「伝統」がそれほど古くないことである。
法制度としての家制度は、1898年(明治31年)の民法によって成立した。戸主が家族の統率権を持ち、家督が長男に相続される仕組みである。これは全国一律の近代法として作られたものであり、それ以前の家族のあり方は地域によっても階層によっても大きく異なっていた。そして家制度は、1947年の民法改正で廃止されている。存続したのは約50年である。
専業主婦を含む家族の形も同様である。夫が賃金労働、妻が家事育児という分担が広く成立したのは、高度経済成長期以降のことだ。統計上、専業主婦世帯が最も多かったのは1970年代で、共働き世帯が専業主婦世帯を上回るのは1990年代に入ってからである。**多くの時代、多くの家では、女性は働いていた。**農業でも商いでも、労働と生活は分かれていなかった。
つまり「伝統的家族」として語られる像は、近代がつくり、戦後の一時期に広まり、そしてすでに過ぎ去った形である。それが「守るべき伝統」として語られるとき、何が起きているのか。選択的夫婦別姓や同性婚をめぐる議論で、この語がどう使われているかを見ると、その働きが分かりやすい。
失われつつあるものを惜しむ気持ちと、失われていないものを取り戻せという主張とは、別のことである。
→家父長制(patriarchy) →選択的夫婦別姓 →同性婚 →宗教右派 →ジェンダー規範
参考文献
- 落合恵美子『21世紀家族へ——家族の戦後体制の見かた・超えかた』第4版(有斐閣、2019年)
- 上野千鶴子『近代家族の成立と終焉 新版』(岩波現代文庫、2020年)
- 内閣府男女共同参画局「男女共同参画白書」各年版(共働き等世帯数の推移)