妊娠を人為的に終わらせること。日本の法制度は、他国と比べて独特のかたちをとっている。

刑法には堕胎罪が置かれており、1907年の制定以来、削除されていない。中絶は原則として犯罪である。そのうえで、母体保護法が例外を定め、指定を受けた医師が一定の条件のもとで行う場合にかぎって処罰されない、という構造になっている。禁止を残したまま、例外で運用する仕組みである。

条件には、身体的・経済的な理由による場合と、暴行等による妊娠の場合が挙げられている。加えて、原則として配偶者の同意が必要とされる。この同意要件は、望まない妊娠の当事者が誰であるかを考えれば、負担の大きい規定である。相手との関係が壊れている場合や、暴力がある場合に、手続きが進まなくなることが指摘されてきた。

2023年には経口中絶薬が承認され、手術以外の選択肢が国内でも使えるようになった。ただし対象は妊娠初期に限られ、原則として院内での待機が求められ、費用も公的保険の対象外である。世界保健機関は、中絶を刑罰の対象から外すことと、第三者の承認を要件としないことを勧告しているが、日本の制度はそこには届いていない。

技術が変わっても、決定の権限が誰の手にあるかは、法が決めている。

→SRHR →リプロダクティブ・ジャスティス →性的同意

参考文献

  • 塚原久美『中絶技術とリプロダクティヴ・ライツ——フェミニスト倫理の視点から』勁草書房、2014年
  • 世界保健機関『Abortion Care Guideline』WHO、2022年
  • 厚生労働省「人工妊娠中絶等の実施状況」 https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/128-1.html

この記事を書いた人