どちらも、外見をめぐる規範との距離の取り方を示す語である。ただし出自も、批判の的も異なる。
ボディポジティブの源流は、1960年代末のアメリカの脂肪受容運動(fat acceptance movement)にある。1969年に設立された全米脂肪受容推進協会や、その後のファット・アンダーグラウンドは、太った身体を治療すべき欠陥として扱う医療と社会に異議を唱えた。担い手の多くは太った女性、とりわけ黒人女性やレズビアンだった。
この語が広く知られるようになったのは2010年代のSNSを通じてだが、その過程で意味が入れ替わっている。ブランドの広告に取り込まれ、標準体型に近い、白い、若い身体が「ありのまま」の代表として掲げられるようになった。運動を始めた人びとが、その運動の顔から外されていく。批判の中心はここにある。
ボディニュートラルは2015年前後に提起された考え方で、身体を愛することを求めない点に特徴がある。好きになる努力もまた努力であり、「愛せない自分」への負い目を生む。だから外見への評価そのものから降り、身体を何かを行うための場として扱う。慢性疾患や障害のある人、摂食の問題を抱えてきた人から支持が広がった。
どちらを選ぶかという話にされがちだが、両者が共通して指しているのは、身体が絶えず評価される場に置かれていること自体である。愛するにせよ降りるにせよ、そこで問われているのは個人の心構えではなく、評価する側の視線のほうだ。
→ルッキズム(lookism) →メイル・ゲイズ(male gaze) →ポストフェミニズム →ジェンダー規範 →セルフケア
参考文献
Sonya Renee Taylor, The Body Is Not an Apology, Berrett-Koehler, 2018人にはボディニュートラルが向いていることも多いですし、外見の受容と自己愛の向上を目指したい人にはボディポジティブが役立つでしょう。
高橋久仁子『「食べもの神話」の落とし穴』(講談社ブルーバックス、2003年)※体重と健康をめぐる言説の検証
磯野真穂『なぜ人は太ってしまうのか——ダイエットの科学と文化』(ちくまプリマー新書、2015年)