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1. 日本における中絶の法的枠組み

日本では中絶は「母体保護法」(1948年施行)に基づき、特定の条件下で合法的に行われています。日本における中絶の特徴は、世界的な流れと比較すると厳格な条件のもとでしか許可されていない点です。

1-1. 中絶が許可される条件

母体保護法第14条に基づき、以下の条件で中絶が認められています。

  • 経済的理由:「母体の健康を著しく害するおそれがある場合」(実質的に経済的理由を含む)
  • 性的暴力:「暴行・脅迫による妊娠の場合」
  • 母体の健康上のリスク:「妊娠の継続が母体の生命や健康を損なうおそれがある場合」

この点で、日本の中絶法は女性の選択を基本的人権として認めるものではなく、例外的に認める制度になっています。

1-2. 「パートナーの同意」要件

日本の中絶制度の最大の問題の一つが、配偶者(またはパートナー)の同意要件です。

  • 原則として、中絶には配偶者(またはパートナー)の同意が必要とされています(母体保護法施行規則)。
  • 例外的に、レイプによる妊娠やDV(家庭内暴力)が関与している場合は、同意なしでも可能とされるが、証明のハードルが高い。

この規定は、女性が自分の身体の決定権を持つという原則に反し、女性のリプロダクティブ・ライツ(性と生殖に関する権利)を著しく制限する要因となっています。

2. 日本の中絶事情の問題点

2-1. 手術による中絶が主流

現在、日本の中絶のほとんどは掻爬(そうは)法または吸引法といった外科的手法で行われています。

  • 掻爬法(キュレット法)…日本では依然として広く使われているが、世界的には旧式の手法とされている。
  • 吸引法(手動真空吸引法, MVA)…WHOが推奨する安全性の高い方法だが、日本では導入が遅れている。

世界では経口中絶薬の普及が進む中、日本では外科的処置が依然として主流であり、医療の進歩に追いついていない状況です。

3. 経口中絶薬の普及と課題

3-1. 経口中絶薬(メフィーゴパック)の承認

2023年、日本で初めて経口中絶薬「メフィーゴパック」(ミフェプリストン+ミソプロストール)が承認されました。

  • 効果:妊娠初期(妊娠9週まで)の中絶を、薬の服用によって完了できる。
  • 使用方法:まずミフェプリストンを服用し、一定時間後にミソプロストールを服用することで、妊娠の終了を誘発する。

3-2. 日本における制限と課題

  • 病院での投与が必須:日本では医療機関での直接投与が義務付けられており、自宅での服用は認められていない。このため、世界的な「セルフマネージド・アボーション」(自己管理型中絶)の流れとは異なる形になっている。
  • 価格が高い:メフィーゴパックの費用は約10万円と高額で、経済的負担が大きい。
  • パートナーの同意問題:一部の医療機関では、経口中絶薬でも配偶者同意を求めるケースがある

このような制約があるため、日本での経口中絶薬の普及は進みにくく、「女性が自由に中絶を選択できる」環境とは程遠いのが現状です。

4. 世界と比較する日本の遅れ

中絶の権利を「女性の自己決定権」として尊重する国々では、中絶のハードルは低く、医療アクセスも充実しています。

  • アメリカ:2022年に最高裁が「ロー対ウェイド判決」を覆したことで州による規制が強化されたが、多くの州では経口中絶薬が容易に入手可能。
  • フランス・イギリス:初期中絶は自己管理が可能で、経口中絶薬はオンライン診療でも処方される
  • 韓国:2019年に憲法裁判所が中絶禁止は違憲と判断。法改正が進んでいる。

これに対し、日本は依然として女性の権利よりも「例外的な中絶」というスタンスが強く、リプロダクティブ・ライツの進展が遅れています。

5. 変革のために必要なこと

5-1. 法改正の必要性

  • 配偶者の同意要件の撤廃:女性の自己決定権を尊重する形で、不要な制約を取り除く。
  • 経口中絶薬のアクセス改善:価格の引き下げ、自宅での服用許可、オンライン処方の導入。
  • 中絶の非犯罪化:女性の選択として正当な医療行為と位置づけ、制裁を伴わない形にする。

5-2. 社会的な意識改革

  • リプロダクティブ・ライツの理解を深める:中絶を「恥」とするのではなく、女性の権利の一部として認識する。
  • 経口中絶薬に関する正しい情報の拡散:安全性や使用方法に関する正しい知識を広める。
  • ジェンダー平等教育の充実:学校教育や公教育で、中絶や避妊に関する包括的な性教育を実施。

6. まとめ:女性の選択の自由を尊重する社会へ

日本の中絶に関する法制度は、女性の身体に関わる選択を、女性自身が自由に行うことを認めていない点において、大きな課題を抱えています。
特に、配偶者の同意要件や経口中絶薬の制約は、女性のリプロダクティブ・ライツを大きく損なっています。

世界的には、中絶の選択を尊重する国が増えており、日本もその流れに追いつく必要があります。
中絶を「例外的に許されるもの」ではなく、「女性の当然の権利」として保障する方向への法改正が求められています。

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日本の中絶に関する問題について、一緒に考えていきましょう。

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