Glossary
フェミニズムは何を目指しているのか?
女性の間で生まれている分断の正体は何なのか?
「ネオリベ(新自由主義)」と「ポストフェミニズム」という2つのキーワードを紐解くと、その答えが見えてくる。
1. ネオリベ(新自由主義)とは何か?
「ネオリベ(Neoliberalism)」とは、1970年代以降に台頭した市場原理を最優先する思想だ。
主な特徴は以下の通り:
- 市場の自由を重視:「政府は介入せず、競争によって経済が発展する」
- 小さな政府:「社会福祉を削減し、自己責任を強調する」
- 規制緩和・民営化:「公共サービスも市場に任せる」
たとえば、サッチャー(イギリス)やレーガン(アメリカ)の政策、日本では小泉純一郎の「構造改革」が典型例だ。
つまり、「政府の役割を縮小し、市場の自由競争にすべてを任せる」という考え方 であり、その結果「自己責任論」が強まる。
2. リベラル(自由主義)との違い
「ネオリベ=リベラル」と混同されがちだが、本来は対極の思想だ。
ネオリベ(新自由主義) | リベラル(自由主義) | |
経済 | 市場原理を最優先 | 格差を是正し、機会均等を確保 |
政府の役割 | 小さな政府(福祉削減) | 大きな政府(福祉充実) |
格差 | 競争の結果として仕方ない | 社会全体で是正すべき |
ネオリベは「市場の自由」、リベラルは「個人の自由」を重視する。
ネオリベは競争の中での成功を重視し、リベラルは「みんなが自由を享受できる仕組み」 を作ることを目的にしている。
3. ポストフェミニズムとネオリベの関係
ここで「ポストフェミニズム」の話が出てくる。
ポストフェミニズムは、第二波・第三波フェミニズム(1970~90年代)の影響を受けながら、次のような特徴を持つ。
- 「女性はもう解放された」という前提(← ここがネオリベ的)
- 「ジェンダー平等」は個人の問題として扱われる
- フェミニズムが市場と結びつく(フェミニズムが消費文化の一部になる)
例えば、
「女性も頑張れば社長になれる!」「起業して成功しよう!」といったメッセージがあるが、これは一見フェミニズム的に見えて、実は「市場競争を煽るネオリベの論理」 に乗せられているだけだ。
こうして生まれたのが、「ネオリベラル・フェミニズム」だ。
4. 「ネオリベラル・フェミニズム」という罠
「ネオリベ×フェミニズム」の組み合わせは、一部の女性の成功を「フェミニズムの勝利」とみなすことで、フェミニズムの目的をズラしてしまった。
典型的なネオリベラル・フェミニズムの例
1.「女性CEOが誕生=フェミニズムの勝利?」
- でも、そのCEOの会社が女性労働者を低賃金で搾取しているかもしれない。
2. 「ガールズパワー」の商品化
- 「フェミニストTシャツ」が売られるが、その製造現場では女性労働者が搾取されているかもしれない。
3. 「もっと戦え!努力しろ!」
- 女性が市場競争に参加することをフェミニズムとすり替えるが、そもそもその競争自体が問題では?
つまり、「個人の成功」をフェミニズムの成果とみなすことで、本来の目的である「社会の変革」が後退してしまう のだ。
5. フェミニズムの分断はここから生まれた
現代の女性の間で起きている分断も、ネオリベラル・フェミニズムが主流化したことが原因 だ。
① 成功した女性 vs. 苦しんでいる女性
- 成功した女性:「私も努力してここまで来たんだから、あなたも頑張れば?」
- 苦しんでいる女性:「いや、そもそも私たちが頑張れる環境じゃない!」
→ 「成功した女性だけがフェミニズムの象徴になる」ことに反発が起きる。
② 「自己責任論」との対立
- ネオリベラル・フェミニズム:「社会は公平。女性も頑張れば報われる!」
- 社会変革型フェミニズム:「そもそも女性は不公平なスタートラインに立たされている!」
→ 「フェミニズム=自己責任論」になってしまったことで、かえって多くの女性を排除してしまう。
6. フェミニズムを取り戻すために
今、フェミニズムを取り戻すためには、「個人の成功」ではなく「社会全体の変革」を目指すこと が必要だ。
✅ 「成功する女性」を増やすのではなく、「すべての女性が生きやすい社会」を作ることを考える
✅ フェミニズムをビジネスの道具にしない(消費文化に取り込ませない)
✅ 女性同士が競争するのではなく、共に生きるための仕組みを作る
7. 結論:「個人の成功だけでは、フェミニズムは成り立たない」
いま、フェミニズムがネオリベの都合のいい形で利用され、「市場競争に勝てる女性=フェミニズムの勝利」という認識が広がっている。
でも、それは本当に「すべての女性のためのフェミニズム」なのだろうか?
「フェミニズムとは、一部の女性が成功することではなく、すべての女性が生きやすい社会を作ること」
この原点に立ち返ることが、フェミニズムの分断を超えていく鍵になるはずだ。