Glossary
1. 不可視化されてきた労働とは
不可視化された労働とは、社会や経済にとって不可欠であるにもかかわらず、正式に評価されず、しばしば見過ごされてきた労働のことを指します。フェミニズムの視点からは特に、家事労働、育児、介護、感情労働など、歴史的に女性に押し付けられてきた労働が重要な焦点です。
- 歴史的背景: 資本主義の発展とともに、家庭内労働が「非生産的」とされ、賃金労働とは区別されてきた。家事や育児は「愛情ゆえの自然な役割」とされ、経済的価値が見えにくくされてきました。
2. 不可視化のメカニズム
- 性別役割分業
社会のジェンダー構造が、女性を「ケアの担い手」として位置付け、労働の可視化を阻害してきた。 - 賃金労働中心主義
収入を生み出さない労働(無償労働)は「仕事」として認識されにくい。このため、GDPや政策においても重要視されていない。 - 感情労働の見えにくさ
サービス業や看護、教育などでは、笑顔や優しさなど「感情の消費」が不可欠ですが、これが労働と見なされにくい。
3. 影響と問題
- 女性の貧困
家事や介護に多くの時間を割いた結果、キャリアの機会を逃す「キャリアの中断」や「非正規労働への従事」が一般的になり、女性の貧困リスクを高めている。 - 心理的・身体的負担
家事・育児・介護を一手に引き受けることで、女性が身体的にも精神的にも消耗しやすい。 - 社会全体の無関心
無償労働が「当然」とされることで、これを支えるための制度やインフラが整わないまま放置されている。
4. 具体例
- 家事労働
「誰でもできること」とされ、賃金が発生しないことが一般的。しかし、家事代行サービスが提供されることで、その労働の価値が浮き彫りになる。 - 介護
女性が親や配偶者の介護を担うケースが多く、経済的負担と孤独感に直面しやすい。 - 感情労働
接客業やケアワークでの「優しさ」や「思いやり」が求められるが、これが労働として認識されにくい。
5. ケアの倫理との関係
- ケアの倫理とは
フェミニズムにおける「ケアの倫理」とは、相互依存を前提とした人間関係の中で、他者のニーズに応じる責任や義務を強調する倫理観です。この視点では、ケアは単なる個人的な活動ではなく、社会的・政治的文脈の中で評価されるべき行為とされます。 - 不可視化された労働との接点
ケアの倫理は、不可視化された労働を「必要不可欠な基盤」として位置づけます。特に以下の点が重要です:- 人間関係の維持:ケア労働は社会の維持に不可欠であるが、その労働者(多くは女性)は過小評価されがち。
- 無償労働の認知:ケアの倫理は、無償労働を単なる個人的責任ではなく、社会的価値として認識する重要性を説きます。
- 依存の肯定:個人の自立を重視する価値観に対し、相互依存を肯定し、ケアを受ける側と提供する側の関係性を再評価します。
- ケア労働の再評価と提案
ケアの倫理に基づき、以下のような取り組みが提案されています:- 政策レベルでの対応:無償労働の価値をGDPに組み込む、ケアワーカーの賃金引き上げ。
- 教育の必要性:ケアの重要性を教育現場で取り上げ、ジェンダー役割を解消する。
- コミュニティの形成:地域やコミュニティレベルでケアを共有し、負担を分散させる仕組みを構築する。
6. 提案と展望
- 政策の変更
無償労働を経済指標に組み込む(例:ケア労働の可視化)。
ベーシックインカムや介護手当など、労働を正当に評価する仕組み。 - ジェンダー役割の解消
ケアの責任を家族全体や社会全体で共有する仕組みをつくる。 - 教育と意識改革
学校教育やメディアを通じて、ケア労働や感情労働の価値を広く伝える。