※この項目は動いている最中の話題を含む。報告書は2026年9月にまとまる見通しで、秋の臨時国会に改正案が出る可能性がある。数か月後に見直しが必要。

性的なサービスの提供を労働として捉える語。1978年にアメリカの活動家キャロル・リーが作ったとされる。それまで使われてきた語が、行為者の人格や道徳を名指すものだったのに対し、この語は行為を職業として言い直すことを意図していた。

立場は大きく二つに分かれ、いまも決着していない。

労働として保護すべきだという立場は、非犯罪化を求める。犯罪とされているかぎり、暴力を受けても警察に行けず、健康被害があっても医療につながれず、賃金を搾取されても訴えられない。ニュージーランドが2003年に採った非犯罪化はこの考え方に立つ。国際人権団体の多くもこの方向を支持している。

廃止すべきだという立場は、性を売買すること自体が女性の従属を再生産すると考える。ただし当人を罰するのではなく、買う側と仲介者を処罰する。スウェーデンが1999年に導入したこの方式は「北欧モデル」と呼ばれ、フランスなども採用している。イギリスやベルギーのように、売る側と買う側の双方の勧誘行為を処罰する国もある。

論点が食い違うのは、多くの場合「自由な選択」の扱いをめぐってである。貧困や依存や搾取のもとでの選択を選択と呼べるか。一方で、当事者の判断を無効と見なすこと自体が新たな支配ではないか。どちらの側にも、当事者の声がある。

日本の法制度と、進行中の見直し

日本では1956年制定の売春防止法が現在も効力を持つ。この法律は売る行為も買う行為も禁じているが、罰則の対象は仲介業者と、公衆の目に触れる場所で客待ちや勧誘をした「売る側」に限られてきた。**買う側には罰則がない。**また同法が定義する「売春」は挿入を伴う性交のみを指し、性風俗産業の大部分は法の外で黙認されてきた。

2022年に成立した困難女性支援法(2024年4月施行)により、売春防止法の補導処分と婦人補導院の規定は廃止された。処罰から福祉への転換とされる一方、労働としての保護は依然として制度の外側にある。

2026年3月、法務省に売買春の規制のあり方を検討する有識者会議が設置された。新宿・歌舞伎町周辺の路上での勧誘が社会問題化したこと、そして未成年者が性売買に従事させられていた事件が相次いだことが背景にある。同年8月24日、検討会は報告書案を大筋で了承した。

論点の整理はこうなっている。

買う側の勧誘行為には何らかの規制を設けるべき——ここはおおむね一致した。処罰の不均衡を是正する必要があるという理由である。ただし、路上をうろつく行為をどう線引きするかについては、客観的な挙動で区別して立証するのは困難だという指摘が残った。

買春行為そのものへの罰則導入は慎重に——こちらは見送りの方向でまとまった。理由が重要である。罰則を設ければ売買春が地下に潜り、「売る側」のリスクがかえって高まる、という懸念である。表に出ていれば介入も支援も届くが、見えなくなれば届かなくなる。

売る側への罰則は維持——廃止を求める意見も出た。処罰の対象になっている人の多くはむしろ保護と支援を必要としている、という理由である。しかし「廃止すれば売春が許容されているという誤ったメッセージになる」との意見が大勢を占めた。同時に、個別の事情に応じて保護や支援につなぐ対応の重要性も指摘されている。

売春の定義を拡大するか——性交類似行為を含めるべきだという意見が出たが、性産業に従事する人への影響を懸念する声もあり、結論は出なかった。

報告書は2026年9月にまとまる見通しで、法務省は秋の臨時国会への改正案提出を検討している。

この議論を追うと、対立の構図が「処罰か放置か」ではないことが見えてくる。地下化の懸念も、非処罰化の要求も、どちらも当事者の安全を根拠にしている。同じ目的から逆の結論が出る。そこが、この主題のいちばん難しいところである。

→性的同意(sexual consent) →アンペイドワーク(unpaid work/無償労働) →山川菊栄 →抑圧 →インターセクショナリティ(intersectionality)

参考文献

  • 青山薫『「セックスワーカー」とは誰か——移住・性労働・人身取引の構造と経験』(大月書店、2007年)
  • SWASH編『セックスワーク・スタディーズ——当事者視点で考える性と労働』(日本評論社、2018年)
  • 法務省「売買春に係る規制の在り方検討会」配布資料・議事要旨(2026年)

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