電車やバスの座席で、男性が脚を大きく開いて座り、隣の座席にまではみ出す振る舞い。man と spreading(広げる)を組み合わせた語である。日本語では「マンスプレッド」と表記されることもあるが、英語は manspreading であり、マンスプレッディングのほうが原語に近い。
語が広まったのは2014年末である。ニューヨーク市交通局が同年、車内マナーの啓発キャンペーンを始め、脚を広げて座る図像がその一つに使われた。ほぼ同時期にSNS上でハッシュタグが広がり、2015年には英語辞書に採録された。マドリードの交通局が2017年に同様の掲示を導入するなど、各都市に波及している。
マンスプレイニングと語形は似ているが、現象は別である。あちらは知の場での否定であり、こちらは物理的な空間の占有だ。共通しているのは、どれだけの場所を取ってよいかという感覚が、ジェンダーによって異なるように育てられてきたという点にある。トロントの研究者リンゼイ・カークハムは、これを社会全体で男性が不釣り合いに大きな取り分を与えられてきたことの比喩だと述べた。
批判もある。取り締まりの対象がラティーノ男性に偏っていたという指摘がアメリカでは出ており、揶揄の言葉として使われるとき、階級や人種の線に沿って刃が向くことがある。誰の振る舞いが「はみ出し」と名指され、誰のそれが見過ごされるのか。この問いを併せて持たないと、概念そのものが別の差別の道具になる。
体格や身体の事情で脚を閉じにくい人もいる。だからこの語は、個人の姿勢を裁くためではなく、空間の分け方を問い直すために使うのがよい。
→マンスプレイニング(mansplaining) →特権 →ジェンダー規範 →インターセクショナリティ →有害な男らしさ(toxic masculinity)
参考文献
- Oxford English Dictionary / Lexico, “manspreading, n.”(2015年採録)
- New York MTA “Courtesy Counts” キャンペーン(2014年)
- Bridges, J. “Gender Politics and Discourses of #mansplaining, #manspreading, and #manterruption on Twitter”, Social Media + Society, 2019