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「有害な男らしさ」(Toxic Masculinity)とは、伝統的に男性に期待される「強さ」「支配」「無感情」といった性質が、他者に対して攻撃的に表現されることや、自己の感情を抑圧しすぎることを指します。この概念は、男性が一定の性別役割に拘束され、個々の価値観や特性が制限されることで、結果的に自分や他者を傷つけることに繋がる性質を持つものです。以下、有害な男らしさが具体的にどのような行動として表れるか、その結果が女性や社会全体に与える影響について解説します。

1. 感情抑圧と共感の欠如

有害な男らしさは、男性が「弱みを見せるべきでない」「感情を表に出すのは女性的」といった圧力を感じ、結果として自らの感情を抑圧することに繋がります。この抑圧は、共感力の低下や他者に対する理解不足に繋がり、女性がパートナーシップや職場で精神的に孤立する原因となることが多いです。また、感情を健全に表現できない男性は、怒りやフラストレーションを他者に対する攻撃行動や暴力で発散してしまう場合があり、これがドメスティックバイオレンスやハラスメントの要因となります。

2. 支配欲求と権威主義

「男が上に立つべき」という支配的な考え方も有害な男らしさの一面です。この考えは、職場や家庭で男性が優位に立つために女性を抑え込もうとする行動に繋がります。例えば、女性の意見を軽視したり、仕事や家庭の場面で女性が自主的に決定をすることを妨げる傾向が強まります。このような支配的な行動は、女性のキャリア発展の阻害や経済的な不平等、社会進出における障壁となり、社会全体の多様性や平等に対する妨げとなります。

3. 他者との競争意識と攻撃性

有害な男らしさには、過度な競争意識や攻撃的な自己表現も含まれます。男性が「競争心や闘争心を持っているのが男らしい」とする価値観に囚われると、チームワークを無視し、女性や他の男性を劣る存在として扱うようになることがあります。これにより、女性が正当な評価を受けづらくなるだけでなく、職場環境全体が敵対的な雰囲気となり、働きやすさが損なわれます。また、この競争意識は、若い世代にも「強くなければならない」というプレッシャーを与え、心理的ストレスを抱えやすくする要因ともなります。

4. 健康意識の低さとリスク行動

有害な男らしさは、「男は強くタフであるべき」「自分の健康状態を気にするのは弱さ」といった偏見を助長することが多いです。これにより、男性が病気の予防やケアを怠りがちになり、結果として健康リスクを高めます。さらに、酒や喫煙などリスク行動に走る傾向も強まるため、家族や社会にも悪影響を及ぼします。例えば、健康リスクの増加が家庭経済に負担をかけ、またリスク行動の結果が事故や暴力の誘因となり、家族がその影響を被る可能性もあります。

社会に与える影響

有害な男らしさが蔓延すると、女性やマイノリティが公正な扱いを受ける機会が奪われ、平等な社会の実現が難しくなります。また、男性自身も有害な男らしさの犠牲者となり、精神的な孤立や不安定さを抱えやすくなります。結果として、メンタルヘルスの問題が増加し、社会的にも大きなコストを伴います。

有害な男性への抗い方

有害な男らしさによる不当な扱いに対して女性が抗うには、個人としての取り組みや社会的なサポートを利用することで、自分の権利や存在感を守ることが重要です。以下、個人と社会のレベルで女性が取り組める方法について解説します。

1. 自己主張と境界設定

不当な扱いを受けた場合、自分の意見や感情を明確に表現し、境界線を引くことが大切です。自己主張(アサーティブなコミュニケーション)は、怒りや感情的な反応ではなく、冷静かつ毅然とした態度で自分の立場や不満を伝えるスキルです。例えば、「それは不適切だと思います」「私はそうは感じません」といった表現で、自分の意見を相手にわかりやすく伝え、相手の不当な行為に対して対抗する姿勢を見せましょう。

2. 支援ネットワークの活用

信頼できる友人や家族、同僚に相談し、支援を受けることは重要です。また、必要に応じて職場の人事や労働組合、女性支援団体などに相談するのも効果的です。特に職場や学校での問題については、適切な対応を取るために、公平性を重視する第三者のサポートが役立ちます。

例えば、「#MeToo」などの運動は、同じような経験をした女性が連帯して声を上げ、支援ネットワークを通じて社会に影響を与えるきっかけを作りました。同様に、各地で活動している女性支援団体やコミュニティに参加し、共感や具体的なアドバイスを受けることも、抗う際の大きな支えになります。

3. 記録を取る

職場や学校で不当な扱いを受けた場合、発言や出来事の詳細を記録しておくことが重要です。記録は、後で状況を報告する際や、法律的なサポートを受けるための証拠として役立ちます。メールやメモ、録音(法律の範囲内で)などを通じて、できるだけ詳細に残しておきましょう。

4. 法的措置を検討する

不当な扱いがエスカレートし、明らかな差別やハラスメントに至った場合、法律に基づいた対応が必要になることがあります。例えば、セクハラやパワハラを訴える際には、労働基準監督署や人権擁護機関などに相談し、法的な解決を求めることができます。こうした行動は、女性が権利を守るための強力な方法であり、同じ問題を抱える他の女性への抑止力にもなります。

5. 社会的な意識啓発

有害な男らしさを社会から減らしていくためには、長期的には意識啓発も大切です。職場や学校での研修、教育の場での性別役割に関する意識改革を進めることで、有害な男性らしさの影響を社会全体で減少させることが可能です。自分だけでなく、周囲の人にこのテーマについて話すことで、他の人が共感し、状況改善に向けて協力しやすくなります。

6. 自己成長を支える活動に参加する

抗うプロセスはストレスを伴うものですが、逆に自己成長や自己肯定感を高めるための良い機会とすることも可能です。心理的サポートが必要な場合、カウンセリングやコーチングを受けたり、自己肯定感を高めるワークショップに参加するのも有効です。こうした活動を通じて自分の感情を健やかに維持し、困難な状況に対処するための心の強さを養うことができます。

女性が不当な扱いに抗う際には、個人と集団の両面から対応することが、より効果的です。

ZINE

有害な男性らしさだけじゃなくって、それによって被害を受けたときの抗い方まで考えてみました。バウンダリー、アサーティブがまず取って大切で、ひとりで抱えず、仲間と支え合うことが必要。同時に記録になども有効だと述べています。「個人と集団の両面から対応する」これを意識して怪物たちに抗いましょう。

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