出産や育児を経て働き続ける女性が、責任の軽い業務や昇進の見込みの薄い部署に置かれ、キャリアの本線から外れていく状態。両立はできているのに、行き先が別の線路に切り替わっている、という比喩である。

言葉の由来は1989年のアメリカにさかのぼる。経営コンサルタントのフェリス・シュワルツが、女性社員を「キャリアを最優先する層」と「キャリアと家庭を両立する層」に分けて処遇することを提案し、これを報道が「マミートラック」と名づけた。もともとは制度設計の提案につけられた批判的な呼び名であり、批判の言葉として生まれている。

やっかいなのは、この配置が悪意ではなく配慮として行われる点にある。「子どもが小さいうちは負担の少ない仕事を」という判断は、善意で下される。だが本人の希望が確認されないまま続けば、数年後には経験の差として固定してしまう。しかも短時間勤務を選んだ側が「配慮してもらった」立場に置かれるため、異議を申し立てにくい。

背景にあるのは、育児は女性がするものという前提と、長時間働ける人を標準とする働き方そのものである。トラックを二本用意するのではなく、一本の線路の敷き方を問うこと。そこに向かわないかぎり、両立支援は分岐点を増やすだけになる。

→性別役割分業 →アンペイドワーク →マタニティ・ハラスメント

参考文献

ジェンダー事典編集委員会編『ジェンダー事典』丸善出版、2024年

中野円佳『「育休世代」のジレンマ——女性活用はなぜ失敗するのか?』光文社新書、2014年

Felice N. Schwartz, “Management Women and the New Facts of Life,” Harvard Business Review, January-February 1989

この記事を書いた人