作家、批評家、教育者。本名グロリア・ジーン・ワトキンズ。ケンタッキー州ホプキンズヴィルの人種隔離下の町で育った。筆名は曽祖母の名を借りたもので、小文字表記は「書き手ではなく書かれた中身のほうを見てほしい」という意思表示である。
1981年の『わたしは女ではないの?』は、19歳のときに書き始められた。黒人女性の経験が、白人女性中心のフェミニズムからも、男性中心の公民権運動からも、同時に取りこぼされてきたことを歴史的に跡づけた本である。彼女はこの排除を、白人至上主義・資本主義・家父長制という三つが絡み合った一つの構造として名指した。これはクレンショーがインターセクショナリティを提唱する8年前のことにあたる。
その後の仕事は驚くほど広い。教育論(『とびこえよ、その囲いを』)、愛について書いた『オール・アバウト・ラブ』、そして『フェミニズムはみんなのもの』——理論を学者だけのものにしないという姿勢は、一貫していた。2021年12月、ケンタッキーの自宅で死去。日本語訳は2020年前後から相次いで刊行されている。
「みんなのもの」という言葉は、簡単なようでいて難しい。誰が「みんな」から漏れているかを問い続けることでしか、その言葉は使えないからだ。
→インターセクショナリティ →キンバリー・クレンショー →家父長制(patriarchy) →フェミニズム(feminism)
参考文献
- ベル・フックス『アメリカ黒人女性とフェミニズム——ベル・フックスの「私は女ではないの?」』(大類久恵監訳・柳沢圭子訳、明石書店、2010年)
- ベル・フックス『フェミニズムはみんなのもの——情熱の政治学』(堀田碧訳、エトセトラブックス、2020年)
- ベル・フックス『オール・アバウト・ラブ——愛をめぐる13の試論』(宮本敬子・大塚由美子訳、春風社、2016年)