婦人解放運動家、作家、翻訳家、編集者。福岡県糸島郡今宿(現・福岡市西区)生まれ。貧しい家に育ち、周囲の援助で上京、上野高等女学校を卒業した。

平塚らいてうが創刊した『青鞜』に加わり、1915年に編集を引き継ぐ。編集方針を掲げず、投稿をそのまま載せる「無主義無方針」の姿勢をとり、雑誌を論争の場に変えた。堕胎、公娼制度、貞操——当時ほとんど公に語られなかった主題が、ここで正面から議論された。とくに山川菊栄との廃娼をめぐる論争は、日本のフェミニズム初期の主要な理論的応酬として残っている。エマ・ゴールドマンの翻訳を通じてアナキズムに近づき、辻潤との生活を経て大杉栄とともに暮らした。1921年には社会主義の女性団体・赤瀾会に参加している。

1923年9月16日、関東大震災の混乱のさなか、大杉栄・甥の橘宗一とともに憲兵によって殺害された。28歳だった。

長らく「奔放」「わがまま」という語で語られてきたが、近年は再評価が進んでいる。村山由佳の小説や、没後100年にあたる2023年の地元・福岡でのイベントを通じて、読み直しの動きが続いている。私生活を理由に思想が値引きされてきた歴史そのものが、いまや問われる対象になった。

→青鞜(せいとう) →平塚らいてう →山川菊栄 →第一波フェミニズム(first-wave feminism)

参考文献

  • 伊藤野枝『伊藤野枝集』(森まゆみ編、岩波文庫、2019年)
  • 栗原康『村に火をつけ、白痴になれ——伊藤野枝伝』(岩波現代文庫、2020年)
  • 村山由佳『風よ あらしよ』(集英社、2020年)

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