出生時に割り当てられた性別と、自分が実感する性別とが一致しない人を指す語。トランス女性、トランス男性のほか、男女どちらにも収まらないノンバイナリーの人も含めて用いられることが多い。対義語として、割り当てられた性別と実感する性別が一致する人をシスジェンダーと呼ぶ。
医学的な位置づけは近年大きく動いた。WHOの国際疾病分類ICD-11では「性同一性障害」が精神疾患の章から外され、「性別不合(gender incongruence)」として性の健康に関する章に移されている。2019年に採択され2022年に発効したこの変更は、脱病理化と呼ばれる潮流を象徴するものである。実感する性別は本人の内的な経験であり、服装や振る舞い、社会生活のうえで必ずしも表に出ているとは限らない、という理解が前提に置かれた。
日本では2003年に成立した特例法(性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律)が、戸籍上の性別変更の要件を定めている。このうち生殖腺を除去することを実質的に求める要件は、2023年10月の最高裁大法廷決定で憲法13条に違反し無効とされた。外性器の外観に関する要件についても、2024年以降、複数の下級審が違憲の判断を示している。ただし法律そのものの改正は行われておらず、2026年6月には日本学術会議が司法判断の進展を踏まえた見解を出している。
用語の範囲をめぐっては議論がある。かつて広く使われた「トランスジェンダー・アンブレラ」は、クロスドレッサーやドラァグを含む幅広い枠組みだったが、包括しすぎることで個々の経験が薄まるという批判が出て、現在は狭くとる立場が優勢である。
呼び名も、範囲も、当事者が決めていく途中にある。外から確定させないことが、この語を扱ううえでの最初の作法だろう。
→性の多様性 →ヘテロノーマティビティ →本質主義・構築主義 →DSDs(体の性の様々な発達) →第四波フェミニズム(fourth-wave feminism)
参考文献
最高裁判所大法廷決定 令和5年10月25日
高井ゆと里『トランスジェンダー入門』(周司あきら共著、集英社新書、2023年)
日本学術会議「性的マイノリティの権利保障をめざして(III)——司法判断の進展をふまえて」(2026年6月11日)