女性が個人の努力で既存の組織の階段を上り、意思決定の場に「一歩踏み出す(lean in)」ことを、ジェンダー平等への道筋とみなす立場。フェイスブックCOOだったシェリル・サンドバーグの著書『LEAN IN』(2013年)に由来する。自信のなさや遠慮といった女性の内側の障壁に光を当て、企業で働く女性の実感をすくい上げたことで、世界的なベストセラーとなった。
批判は早くから出ている。ベル・フックスはこれを「まがいもののフェミニズム」と呼び、白人で富裕な女性が既存の権力構造をそのまま受け継ぐ図式にすぎないと指摘した。ナンシー・フレイザーらは、資本主義への批判を手放したフェミニズムが新自由主義の自己責任の物語に回収されていく過程として、この潮流をとらえる。
ケアの視点からは、別の問いが浮かぶ。ある女性が長時間働けるのは、たいてい誰かが家事とケアを引き受けているからである。誰かが一歩踏み出すために、誰が一歩下がっているのか。構造を変えないまま姿勢だけを変えることを、平等と呼べるのだろうか。
→ネオリベラル・フェミニズム →リベラル・フェミニズム →ガラスの天井 →マミートラック →社会的再生産 →グローバル・ケア・チェーン →ケアの倫理
## 参考文献
- シェリル・サンドバーグ『LEAN IN(リーン・イン) 女性、仕事、リーダーへの意欲』村井章子訳、日本経済新聞出版社、2013年
- bell hooks「Dig Deep: Beyond Lean In」The Feminist Wire、2013年10月28日 https://thefeministwire.com/2013/10/17973/
- シンジア・アルッザ、ティティ・バタチャーリャ、ナンシー・フレイザー『99%のためのフェミニズム宣言』惠愛由訳、菊地夏野解説、人文書院、2020年
- Catherine Rottenberg『The Rise of Neoliberal Feminism』Oxford University Press、2018年